
2023年1月に配信が始まり、毎週月曜17時に更新してきたPodcast番組『聞くCINRA』が、1周年を迎えた。
「カルチャーとソーシャルの交差点に立つ」をコンセプトに、カルチャーを通して社会のあり方や未来について語り合う約30分のトーキングプログラムとして、これまで多彩なゲストを迎え、お届けしてきた。昨年末の#Spotifyまとめによると、この番組がトップ10に入っている方は4,988人、ナンバーワンPodcastになっている方が330人と多くの方にお楽しみいただいている。
Webメディアが音声コンテンツを始めた先に見えてきたこと、これまでを振り返って思うこと、そしてこれからーー。普段収録を行なうスタジオで、企画と進行を担当するCINRAフェロー・株式会社湯気代表の南麻理江、CINRA編集長の生田綾、レコーディングや編集を担当する映像ディレクターの石原大輔による座談会を開き、音声コンテンツだからこそできることについて語りあった。
取材協力:柏井万作(NiEW Inc. )
取材・執筆:宇治田エリ 撮影:大畑陽子 編集:小松綾子(CINRA, Inc.)
―『聞くCINRA』のスタートから、1年以上経ちました。これまで記事コンテンツを中心に生み出してきたCINRAが、なぜ音声コンテンツでの発信を始めたのでしょうか?
生田:2022年に「CINRAフェロー」として南さんにジョインしていただき、メディア立ち上げから20年経ったCINRAのこれからをさまざまな角度から議論していたんです。
南:CINRAは基本的に、文字を扱う記事コンテンツを発信し、読者の方々から支持を得てきました。しかし近年は、動画や音声など、ネットメディアの発信方法も多様になっている。
そんな中で、「ソーシャル×カルチャー」を掲げるCINRAのことを、これまでのCINRAの愛読者はもちろん、これからCINRAを知ってくださる方にも受け止めてほしい。そのためには、まず私たちが、小さくてもいいから新しい挑戦をすることが大事なんじゃないかと考えました。Podcastにしたのは、インディペンデントなメディアであるCINRAにぴったりな手法だということ、そして何より取りかかるハードルが低いという点が大きかったです。
―「カルチャーとソーシャルの交差点に立つ」というコンセプトは、どのように決まったのでしょうか?
南:これは初期の段階で、ミーティングをしている際に何気なく書き出していた言葉だったんです。いざコンセプトを固めるという時に改めて検討したところ、「交差点に立つって、コアなところをついているんじゃない?」という話になって決まりましたね。

―実際に1年以上続けてきて、発見はありましたか?
南:回を重ねる度に、「カルチャーとソーシャルの交差点に立つ」というコンセプトがどんどんしっくりくるようになっていきました。社会的なこと、政治的なことについて「誰かに任せておけば安心」という時代ではない。そんな中、カルチャーを強みにずっと発信してきたCINRAが、改めてそれらの交差点に立って、ゲストの方々と一緒に“交通整理”をしていく。そんな番組のあり方がいい感じにはまってきたと思っています。
石原:僕自身、入社する前からもともと『聞くCINRA』のリスナーでした。最初は転職活動のために、どんな会社なのか知りたくて聞いていましたが、金承福さんが登場した回(#25〜27『82年生まれ、キム・ジヨン』から約5年。今あらためて知りたい韓国文学のこと。)がすごく面白く、そこからCINRAが「ソーシャル×カルチャー」を掲げる理由がわかったというか。まさに交通整理をしてくれたから、今があると感じますね。
生田:それから、とにかく南さんのMC力がすごいんですよ。それこそ、最初は台本をしっかりつくってその通りに進行していましたが、最近は「ここはもうちょっと深堀りして聞けそう」と思うことを、阿吽の呼吸で感じ取ってくれて、アドリブで深い話に持っていってくれるんです。

南:いえいえ、そこはお互い様です! 私も生田さんも、キャリアとしてはテキスト中心でやってきたので、音声に場所を移しても、テキスト編集者やライターとしての癖がなかなか抜けなくって。“骨子”や“起承転結”がないと不安で、台本もしっかり用意していたんです。でもそうするとゲストと聞き手との間に硬直した関係性が生まれてしまうような感覚もあって……。
実際に、立ち上げた時から「おしゃべり」というキーワードもチームで大事にしてきたので、何とかそれを実践したい、と目指していくうちに、聞き手としゃべり手が縦横無尽に、その場ごとで役割が変わっていくようなグルーヴ感が出せるようになってきたような気がします。
石原:確かに、『聞くCINRA』の制作に参加させてもらうようになってから、現場で話を聞いていると、毎回違ったグルーヴ感が生まれているのが面白いなと感じますね。

―グルーヴを実感するようになったのは、どのようなタイミングでしたか?
南:肩の力を抜いておしゃべりができるようになったきっかけは、2023年の9月に渋谷PARCOで行われたイベント『「聞くCINRA meets SHIBUYA PARCO ART WEEK」公開収録』で、Podcast番組『奇奇怪怪』のMCであるDos MonosのTaiTanさんをゲストにお招きした時です。
そこでTaiTanさんが、「『奇奇怪怪』は、深いカルチャー談義が聞ける場と言っていただくこともあるが、究極的には、聞いていて耳が心地いい、楽しいと感じる会話のリズムを大切にしている」とおっしゃっていて、その言葉にすごくハッとさせられたんです。
確かに、台本そっちのけでおしゃべりしてくださるゲストの方と話していると、その人が持つ磁力に魅了されるし、グルーヴ感が生まれることが多々あって。私たちも事前準備はしっかりしつつ、手ぶらで散歩しながら話している時のような、気持ちのいい場をつくっていくことが重要なのかなと思うようになりましたね。
そこからは、生田さんとの呼吸というか、スピード感も合うようになってきたなと実感しています。
生田:私はまだまだインタビューモードが抜けないところがあって。自分がしゃべることにも未だに慣れていないし、いい話が聞けているかどうか、とれ高を考えながらその場に生まれるグルーヴ感を大切にしようとするのはなかなか大変で。音声の特徴として、事実誤認があった場合などの修正も大変なので、そういった意味では記事のインタビューよりPodcastの方に難しさを感じます。特にPodcastの場合は、ゲストとして呼んではいるけれど、おしゃべりの場では対等なので、そうなってくると私自身もちゃんと話していく必要があるなと感じています。
南:生田さんがしゃべってくれるパスを出していくのは、私の個人的なミッションでもあります(笑)。

―確かに、編集長である生田さんをはじめ、CINRAの「中の人」の話や考えを聞けるというのは、普段からCINRAの記事を読んでいるリスナーにとっても新鮮で、魅力のひとつだと感じます。記事と音声の両軸でコンテンツをつくることは、どのような相乗効果を生み出すと思いますか?
南:CINRAフェローとしてのミッションにもつながると思うんですが、私としては、「生田綾さんはこういう人ですよ」ということをリスナーに伝えたくてやっているところがありますね。記事でもクレジットに名前が入っているので、「この人の記事が好き」とか「信頼できる」といった具合にファンがついていくと思うのですが、Podcastの場合はよりパーソナルな部分が見えてくると思っています。
生田:Podcast番組は、「周りからどんな評価を受けているものであっても、自分が好きであるものを好きだと言っていいし、自信を持っていい」というメッセージをすごく伝えやすい場だと思っていて。とはいえ、私自身も自分が何を考えて、何を感じているのかを話すことにハードルの高さを感じていますし、SNSでも自分が思っていることや考えていることは言いづらい。そんなモヤモヤを抱えがちな人が世の中にたくさんいるからこそ、ちゃんと自分を開示していくことが必要だなと思ってチャレンジしていますね。
南:チャレンジし続ける生田綾さんを、今後も皆さんよろしくお願いします(笑)。

―『聞くCINRA』には毎回ユニークなゲストが登場し、さまざまな世界に触れる機会を与えてくれます。企画やゲストの方々はどのように決めているのでしょうか?
生田:ソーシャルに軸足をおいた骨太な回もあれば、軽やかにカルチャーの話をする楽しい回もあるように、バランスを取りながら企画やゲストを決めていますね。また、映画やテレビ番組が公開されるタイミングに合わせて出すようにもしています。「絶対にこの人をゲストに呼びたい」という場合は、そこから企画を考えていきます。そうやってネタ出しを常にしているのですが、ギリギリまで決められなくて、常に自転車操業ではありますが(笑)。
―#28の小野寺系さんがゲストの回では、映画『バービー』を題材にバーベンハイマー現象やジェンダー問題について語るなど、ソーシャルイシューに関する話題に切り込みながら話が展開していきました。Podcast番組でソーシャルイシューについて語る時、意識していることはありますか?
生田:ソーシャルイシューについて話すときは、「本音で話す」ことを大切にしていますね。声って話し手の感情が伝わりやすいので、嘘を言うと白々しく聞こえてしまう。だからこそ、本音で語ることを大切にしています。
南:生田さんが本音で話しているということは、私も隣でめちゃくちゃ感じるんですよ。あと、生田さんがすごいのは、わからないことはわからないと素直に言う点だと思います。その誠実さがあるから、ゲストの方の話を独自の切り口で掘り下げられる。
伝統芸能に詳しいライターの九龍ジョーさんに出演いただいた際に、「古典芸能のステレオタイプなジェンダーロールの描き方や女性蔑視的な言い回しってどうなんですか?」と質問したシーンなどは、ハイライトの一つだと思います。九龍さんの返答も本当に見事なので是非聞いてみていただきたいですね。(#35)
―たしかに、生田さんが「わからないことをわからないと言う」姿勢を貫いていることで、これまで自分の専門外だと思っていた領域がグッと身近になり、接点が生まれたと感じる瞬間があったように思います。
生田:カルチャーに詳しくない人にとっても面白い番組にしたいというのは常に意識していますね。というのも、CINRAに出てくださる人や関わるライターさん、読者の方々によく「カルチャーにめちゃくちゃ詳しい人がいる集団ですよね」と言われることが多くて。もちろん、特定の領域について飛び抜けて詳しい人が集まっていますが、みんながみんな、すべてのカルチャーを深く網羅しているわけではないんですよね。好奇心を持ち、知ろうとすることが大事だと思うので、率先して質問していくことでハードルを下げていきたいなと思っています。
南:生田さんが橋渡し役としていながら、そのテーマに興味を持っているCINRAのメンバーが聞き手として加わる回もあります。CINRAメンバーの多様性も見えてくるから面白いんですよね。
石原:僕もいつか、映画の回に出てみたいですね。

―CINRAのメンバーが提案することもあるのですか?
生田:そうですね。TikTokerのしんのすけさんは、プランナーの光永智子さんの提案でしたし、韓国文学の金承福さんや東京大学大学院情報学環教授の田中東子さんは、編集者の後藤美波さんの提案で決まりました。
石原:編集者の方々の話を聞くと、僕のような映像を撮る側とはまったく違う視点を持っているので、毎回なにかしらの発見があるというか。すごく学びと刺激をいただいています。
―コンテンツをつくる上で、大変だったことはありますか?
生田:収録から配信までの時間は、記事に比べて圧倒的に短いのですが、それでも刻一刻と変わる世の中の状況に応じた判断を迫られる時があり、毎回悩ましく感じます。
たとえば、編集者の阪上さんが登場し、女性芸人をめぐる現状について語った回(#45)。その回の収録後に松本人志さんをめぐる週刊誌の報道がありました。収録ではその報道には全く触れられていなかったことから、リスナーの中にはモヤモヤする人もいるかもしれないと考えて。そこで南さんと話し合って、配信前に「なぜ今回のエピソードを配信するのか」というコメントを追加した上で配信しました。そういった素早い対応が求められる時は、大変だと感じますね。
南:松本さんをめぐる報道があっても、特に何も変わらず流れていくテレビ番組や企画が大半です。そういうスタンスもあるけれど、私たちはそれでいいのか。『聞くCINRA』のリスナーの多くは、報道やSNSを見聞きしていてモヤモヤしたり胸を痛めたりしているんじゃないかと思った時に、インディペンデントで小回りの効く私たちはどういうスタンスが取りうるのか。生田さんとかなり密に会話しましたよね。
生田:ゲストの阪上さんのご協力が何より大きかったです。私たちの編集方針を最大限尊重したいと最初からおっしゃってくださっていました。一時は“お蔵入り”も考えたほどでしたが、最後の決め手は、阪上さんが番組で語った「異なる意見を持つ人たちが対話を重ねる大事さを教えてくれるのが、自分にとってお笑いの魅力」という言葉でした。 正解はないと思うんですが、あの時の私たちなりのベストをリスナーに対して尽くせたんじゃないかと思っています。
南:先ほど話した映画『バービー』について語った回でも、収録の直前に「バーベンハイマー現象」が日本国内では悪い形で加熱していて、判断を迫られました。
バービーとキノコ雲を合成した画像に、アメリカの映画公式アカウントが好意的なリプライをし、大きな批判の声があがっていたからです。
バービーの魅力や奥深さについて様々なトークをする予定でしたが、原爆の被害や被爆者の心情を公式が軽視しているともとれる中で、どう取り上げることができるのか。
日本側の映画公式アカウント(※米ワーナー・ブラザーズの子会社)がきちんと態度を表明しない状況のまま収録に入りそうになってしまったので、小野寺さんともどのような形で話していくべきなのか、直前までメールやお電話でやり取りしていましたね。
生田:結果としては収録前日に、日本公式がコメントを発表したことで、「ひとまずアメリカの宣伝アカウントの発信と作品そのものの価値を切り離して議論をしよう」という風に決めて収録をしました。
生田:南さんとは色々な場面で議論していて、たとえばPodcastを始めた時も、耳が聞こえない方に向けてどのような対応をするか、アクセシビリティも外部の方にアドバイスをいただいて一緒に考えていき、現在は精度の高い自動文字起こしツールを案内に入れておくといった対応をしています。
石原:2人の姿を間近で見ていても、本当に真摯だなと感じますね。

―2年目に向けて、やっていきたいことはありますか?
生田:CINRAを日々支えてくださっているライターや編集者の方々にゲストに出ていただいて、一緒におしゃべりをするということは引き続き大事にしながら、もうちょっと新しいチャレンジというか、アップデートはしていきたいですね。それが何なのかというところは今まさに話し合っている最中なのですが。
やっぱり、記事では難しいけれど、音声だからこそできることは何だろうということを、もうちょっと突き詰めて考えてやっていきたいなと思うんです。編集をやっていると、「見出しが立つかどうか」という視点で企画を考えがちですが、見出しが立てられないけど大事な話や、していかなければいけない話が今はたくさんある。「記事のタイトルにならない話をしたい」ということも考えています。
例えば「キャンセルカルチャー」などもそうですよね。記事だと「落としどころ」を見つけたり、立場を明確にすることが必要とされたりしがちですが、音声コンテンツの強みは、このような答えが見つからない難しい問題について、そのまま話せる可能性があると思っていて。そういうテーマについて踏み込んでいき、ゲストと一緒に話していけるようになったらいいのかなと思っていますね。
南:あとは、ゲストの組み合わせの妙からトークが面白い方向へ向かっていったらいいなと思っていて、それもまたわれわれの腕の見せどころではありますよね。
生田:そうですね。違う考えを持つ人同士がしゃべる場というのはつくっていきたいですね。分断社会と言われている中で、違う意見を持っている人と対話してお互いのことを知るというのは、いますごく大事なことだと思うので、Podcastを通して何かしらのアプローチができたらと思います。
南:個人的には「微妙に違う」ってところがキモなんじゃないかなって思ったりしています。違う意見の人同士が真っ向から「激論!」というよりも、概ね同じ方向性に賛同しているけどちょっと違うっていう人、身の回りにもたくさんいるじゃないですか。そういうちょっとした違いを「おしゃべり」はどうポジティブに変化させてくれるのか。その一端を見せていけるといいなぁって思うんです。
―いちリスナーとしても、『聞くCINRA』で生まれる議論を通して、「このテーマについてもっと考えたい」「自分も語れるように、カルチャーやそれを取り巻くソーシャルの問題をもっと知りたい」と、行動に移したくなっている自分がいることに気づかされます。今後、『聞くCINRA』を通して、どのような働きかけをしていきたいと考えていますか?
南:やっぱり、リスナーの方々に働きかけていくためには、私たち自身がチャレンジして、変化し続けていくことが大切だと思っていますね。実名発信の重要性が増している時代だからこそ、メンバーがどんどん出てきて「私はこういう人間です」「CINRAの編集者はこんな考え方をしています」と発信をしていくことで、よりCINRAという存在が近いものになり愛される存在になったらと思います。
生田:近年はクリエイターの方々や役者などの表舞台に立つ方の中でも、ソーシャルに対して発信する人が増えてきています。そんな中で、彼らがもし話したいなとなった時、「『聞くCINRA』だったら安心して話せる」と足を運んでいただけるような場になっていけたらいいですよね。

◆『聞くCINRA』について
「カルチャーとソーシャルの交差点に立つ」をコンセプトに、カルチャーを通して社会のあり方や未来への希望について語り合うPodcast番組です。2023年1月末からスタートし、毎週月曜17時に配信しています。

◆メディアCINRAについて
芸術文化をルーツとする「CINRA」は、ソーシャル×カルチャーをキーワードに、世界をよりよい場所にしたい、人生をよりよく生きたいという、あらゆる表現者の「クリエイティブな意思」を世の中に届けています。一人ひとりの情熱や違和感、問題意識に耳を澄ませ、社会や文化に好奇心を抱く人に向けて、情報を伝達するだけでなく、思いを媒介するメディアでありたいと考えています。 https://www.cinra.net/
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CINRAについて