
新型コロナウイルス(COVID-19)の流行により、世界中で広がっているツーリズムへの影響。徐々に都市のロックダウン解除なども始まっていますが、今後観光産業はどうなっていくのでしょうか?
アジアのシティガイド「HereNow」運営や、地方自治体のインバウンドマーケティングのお手伝いなどを行っている、株式会社CINRAのInternational Companyが、各国のローカルメディアなどで報じられている内容を参考に、それぞれの国におけるツーリズムの今後を推測。前編ではアジア諸国、後編では欧米豪の動向を、それぞれ紹介していきます。
リサーチ・テキスト:井手聡太、原里実
・観光業のV時回復は見込めず、2021年から2022年頃までかけた緩やかな回復の見込み
・世界共通で、まずは各国、国内需要をターゲットに観光業を復興させる見込み
・中国の隣国は中国からの観光客再開を期待しつつ、アメリカ・ヨーロッパに先駆けて回復へ向けてスタート
・当面は個人旅行者を対象に、ショートトリップの提案が必要
・安全性へのニーズの高まりを受け、対策の実施、情報開示が重要となる
・オーバーツーリズムからアンダーツーリズム、サステナブルな観光を重視する流れ
・二国間以上で観光面の協力体制をとる「トラベルコリドー」形成の動きが各地で起こっている

感染者数は150万人、死者数は9万人を超え、甚大な被害が出ているアメリカ合衆国(5月18日現在)。『The New York Times』は5月6日に、「旅行の未来」と題した大々的な特集を公開。複数の専門家に話を聞き、「航空」「船舶」「家族旅行」「ホテル」「サステナビリティ」「旅行保険」など、さまざまな角度からの疑問に答える記事を掲載しました。
・テンプル大学心理学教授のフランク・ファーリー氏によれば、「パンデミックは人々に後遺症を残しつつゆっくりと収束していき、その多くは心理的なものになるだろう」。
・それでも旅行意欲は消えず、ある調査ではアメリカ人の3分の1が、制限が解除されてから3か月以内に旅行することを望んでいる。
・失業や雇用不安もあり、パンデミック後の家族旅行はより短期のものになる可能性が高い。
・ある調査によると、アメリカ人旅行者の半数以上が、旅行を再開するときに混雑した旅先を避ける計画を立てている。
・国立公園は記録的な人数の訪問者を集めており、たとえばユタ州のアーチーズ国立公園の2020年2月の訪問者数は、昨年同月と比較して40%増加。
・宿泊施設ではプライバシーがより重視され、あるホテルリゾートでは、外部廊下式の建物への需要がすでに高まっている。
・あるツアーオペレーターの担当者によれば、「2020年が屋内で過ごす年になれば、2021年はサイクリングやトレッキング、マインドフルネスなどをツアーの中心にし、屋外でアクティブに過ごす年になるだろう」。
出典:The Future of Travel - How the industry will change after the pandemic, The New York Times
また、旅行産業に携わる企業・組織による協会、USトラベル・アソシエーションは「Travel in the New Normal (新標準にのっとった旅)」と題し、パンデミック後のガイダンスを提示しました。ガイダンスでは、「公共スペースの再設計」「タッチレスソリューション」「衛生対策の強化」「従業員への健康スクリーニング」など6つの領域に焦点を当て、具体的な例を示しています。

日本では被害の大きなフランスやイタリアなどの状況が大々的に報道されていますが、ギリシャなど押さえ込みに成功している国もあり、ヨーロッパの状況は国ごとに異なります。観光面では、訪ヨーロッパの市場は世界の観光市場の50%を占めており、大きな影響を受けています。CNN Travelでは、EUとヨーロッパ各国の今後の対応について以下のように報じています。
EU
・ビーチやホテル、キャンプ場、カフェ、レストランといった場所でゲストや従業員を守るため、健康・安全規定の開発へ向けたロードマップを定めている。たとえば、ジムやプールを事前に時間予約などできるようにする、など。
・キャンセルされた交通機関のチケットやツアー旅行に対して、旅行者にバウチャーまたは現金払い戻しのいずれかを選択する権利を与えるルールを強化。
・ウイルスの「追跡アプリ」が国境を越えて機能できる仕組みづくりを行う。
フランス
ヨーロッパのなかでも被害状況が大きく、海外からの旅行者受け入れには時間がかかりそう。
ギリシャ
ギリシャは早い段階で厳しい封鎖に踏み切り、死者数を少なく抑えた。国内の旅行制限は5月18日に解除され、6月1日から一部のホテルが再開。今後はよりハイエンドな旅行者をターゲットとする目論見。
スペイン
スペインのロックダウンはヨーロッパのなかでも厳格なものだったが、徐々に緩和。ビーチは6月に再開予定で、一部のホテルも営業再開の許可が出ている。しかし当局は慎重であり、夏のシーズン前に観光客の入国が再び許可されることはないだろう。ビーチが再開しても、一日5,000人まで、先着順など制限をかけるところも。
イタリア
EU内の旅行者は、6月3日より2週間の検疫を経ずとも入国できると発表。ロックダウンは現在段階的に解除されており、すべてのショップは5月18日に再開し、その後カフェ、レストラン、バーが続く予定。シチリア島はすでに旅行者を誘致するための助成計画を発表。
ドイツ
コロナウイルスによる死亡者数はある程度抑えこんだものの、観光客の再受け入れには慎重。マース外相は、受け入れ再開が早すぎることへの懸念を表明しており、欧州諸国が足並みをそろえて最善の行動方針を決定すべきだと強調していた。
イギリス
海外からの入国者に対して14日間の検疫を導入することを発表。現在の計画では、ホテルは7月上旬に開業する可能性があるものの、国内旅行に重点を置くことが予想される。
出典:Europe promises to reopen for summer tourism in wake of coronavirus, CNN Travel
被害状況と同様、観光への対応にも各国かなりの違いが出ていることが見受けられます。
一方、バルト三国のエストニア・ラトビア・リトアニアは、5月15日から三国間の国境を再び開放するという報道 が出ています。三国の国民は三国間を自由に移動でき、外部からの入境者は検疫に入らなければならないというものです。
これはいわゆる「トラベルコリドー」と呼ばれる複数国間の緩和策で、次で紹介するオーストラリア・ニュージーランドによる構想も近い内容です。

上記で述べたバルト三国の例のように、オーストラリア・ニュージーランド間でもトラベルコリドーの確立に向けて動いている、とCNN Travelが報じています。
・構想が実現すれば、両国の居住者は検疫なしで二国間を自由に移動できるようになる。
・いまだウイルスと戦っている国とそうでない国があるいま、安全な国同士がこのように協定を結ぶことで、観光産業の再開につながる可能性がある。
このように、自国の国内需要に頼るのみにとどまらず、安全を確保した国同士が「トラベルコリドー」を形成し検閲の手続きを省くなど、手を組む事例が出てきています。
プロモーションという側面においても、国境を越えてより広域で観光客誘致にともに取り組む試みは、ロシア・フィンランド間 などでみられます。たとえば「沖縄×台北」「成田×桃園」など、地理・文化などをテーマにアジアの国や都市と手を組み、一緒にプロモーションを行うなども、検討の価値があるかもしれません。

ここまでに、「安全性」「ショートトリップ」「健康体験」「アンダーツーリズム」など、今後の観光産業をうらなうさまざまなキーワードが出てきました。最後に触れておきたいのが、「オンライン体験」についてです。
現在、スイスやドバイ、オーストラリア、ベトナム、マチュピチュなど、VRコンテンツを提供する国や地域は多数。以前から提供していたところもあれば、今回のパンデミックを期に始めたところもあります。
そのほか、アメリカ合衆国の政府観光局に該当する「ブランドUSA」では、2018年に「GoUSA TV 」という動画配信サービスを開始。アメリカの観光スポットやグルメ、アウトドアなどを紹介する番組はもちろん、カルチャーに深く切り込む骨太なドキュメンタリー作品なども数多く制作・配信しており、このパンデミック下でも新シリーズを展開していました。

シンガーソングライターのアロエ・ブラックがアメリカ音楽のルーツをたどり、ニューオーリンズ、シカゴ、ナッシュビル、マイアミ、ニューヨークなどの音楽都市シティーをめぐる『America's Musical Journey』。劇場でも公開されたという
また、フィンランドの首都・ヘルシンキでは、毎年4月30日の夜に行われるメーデーのイベントを、今年はVRを活用して実施。「The Guardian」によれば、このイベントには50万人以上が参加したといいます。
・イベントで活用されたのは、2018年にローンチした、ヘルシンキの街をVR世界に再現するプラットフォーム「Virtual Helsinki 」。
・マンチェスターメトロポリタン大学のTimothy Jung博士によれば、「今後はVRの役割が増え、観光業界も将来、現実とバーチャルを組み合わたハイブリッド体験の提供を検討する必要があるかもしれない。パンデミック後、人々はバーチャル体験に対してよりオープンになり、それは観光業界の新常識として受け入れられるかもしれない」。
出典:Helsinki's huge VR gig hints at the potential of virtual tourism, The Guardian

YouTubeでも体験できる「Virtual Helsinki」
これまでの観光産業においては、「実際の訪問によって得られるもの」こそがトップレベルの体験でした。しかし、今後はオンラインでの体験も重要なインフラの一つとなる可能性が出てきています。
今後はますます、観光客のニーズをいち早くキャッチし、観光コンテンツ制作やプロモーションに役立てることのできる自治体、国が旅先として選ばれていく時代になるのかもしれません。CINRAのInternational Companyでは、自治体が持つコンテンツが外国人観光客からどう見えるのか、インサイトを調査する「コンテンツポテンシャル調査 」も承っています。客観的な視点を生かしたい自治体のみなさま、ぜひご相談ください!
インバウンド戦略における外国人視点を把握する「コンテンツポテンシャル調査」をリリース

インバウンド、アウトバウンド問わず、さまざまな観光プロモーションの実施のほか、アジア11都市で展開するシティガイド「HereNow」も運営するInternational Companyが、このたび新ソリューション「コンテンツ ポテンシャル調査」をリリースしました。
異なる文化を持つ旅行者がターゲットとなるインバウンドでは、地域で一番人気の観光コンテンツが受けなかったり、逆に思わぬコンテンツが人気だったりといったことが頻繁に起こります。
本サービスは、そういったインバウンドにおける「ギャップ」を把握することが可能となるサービスです。【旅前】【旅中・旅後】といったニーズに合わせて、オンラインまたは現地調査を実施します。https://www.cinra.co.jp/news/contents_survey
コロナ禍の観光プロモーションについて、無料オンラインお悩み相談会開催! https://www.cinra.co.jp/news/online-2
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