
2021年10月にリニューアルした「CINRA」は、カルチャーの視点を持ちながらソーシャルイシュー(社会問題)を扱うことを決めた。同じように、アート業界からソーシャルイシューを扱うWeb版「美術手帖」の編集長・橋爪勇介氏をゲストに迎え、CINRA編集長・生田綾と対談を行なった。
前半のインタビューでは、メディアの意義や今後の行方などを語っていただいた。後半では、Webメディアを継続させるための評価や収益との兼ね合い、そして起こっているソーシャルイシューに対してどのように打ち返してきたか、編集長でありながら現場主義でもある二人に聞いた。
取材/執筆:宇治田エリ 撮影:北原千恵美 編集:青柳麗野(CINRA, Inc.)
―ソーシャルイシューを扱いながら、メディアの成果も求められる状況のなかで、現在はどのような評価体制をとっているのでしょうか?
橋爪:数字には責任を持たなければいけないという意識を持っていますが、それを達成するなかでの具体的な縛りはありません。比較的、自由にのびのびとやらせてもらっているほうだと思います。「アート」と聞いて何を思い浮かべるかは人それぞれ。私たちはいろんなトピックを提供することで、さまざまなアートファンを増やしていこうという体制をとっています。

生田:私は2022年4月に入社したばかりなのですが、CINRAに携わって一番びっくりしたのが、CINRA独自の指標が多いところでした。PV数を見る以外にも、PV数と滞在時間を掛け合わせて、コンテンツへの没入度を図る指標もあって。しかもそれは記事だけじゃなく、動画制作やイベント運営にも適用され、全社的に評価しています。
こういう評価体制にしているということはつまり、「CINRA読者にとって濃い体験をつくることができているか?」という問いかけでもあるんですよね。実際にCINRAの記事は、平均的なWeb記事よりも文字数が多いこともありますが、滞在時間はすごく長めなんです。

―メディアを運営していくうえで、お金は切っても切れないものです。二つともやりたいことを貫いているメディアに見えるのですが、コンテンツと収益の関係性については、どのようにお考えですか?
生田:Webメディアは、一般的に広告コンテンツから収益を受けていることが多いのですが、CINRAの場合は企業のオウンドメディア制作やクリエイティブ業界の求人サービス(CINRA JOB)なども行なっているので、メディア事業以外にも収益の柱があります。そうした事業の収益が大きな支えになっていて、そのおかげで開かれた場で記事を出し続けられていることに、ありがたさを感じています。でも、もちろんメディア単体でマネタイズしていくことも必須だと思います。
橋爪:Web版美術手帖の場合は、タイアップ記事や純広告が収益のメインです。掲載の判断は都度、編集部で行なっており、メディアの方針に当てはまるクライアントのご依頼しか受けていません。また、それ以外に「美術手帖PREMIUM」という『美術手帖』本誌のアーカイブも見ることができる有料の会員ページからも収益があります。
このPREMIUM自体は、2020年にコロナ禍で生まれたサービス。今後、さらに大きく発展させ、コアなアートファンの読者と交流の場をつくり、オフラインでも濃い関係を築けるようなコミュニティーにしていけたらと思っています。
生田:サロン的な場ですね。確かに日本には、より美術の知識を得たい人が多いですから、相性が良さそうです。CINRAの場合は、会社のミッション(人に変化を、世界に想像力を)にもあるように、みんなが同じ情報に触れられるよう、公益性を大事にしたいなと私は思っていて。インターネットにアクセスできるすべての人が、すべての情報にアクセスできることを大切にしたいなと思っています。
―現在の編集チーム体制も、それぞれ教えてください。
橋爪:編集部チームは少数精鋭で、ぼくを入れて4人体制です。といっても、どちらかというと記者集団に近くて、メンバーが自主的に動き、自分でも記事を書けることが基本です。そのほか、複数の外部ライターの方々に協力をいただくことでいまのコンテンツ量が維持できていると言えますね。
生田:なるほど。記者意識があるからこそ、ほかに追随を許さないほどフットワーク軽く動けるのですね。CINRAは、自分で書くメンバーもいますが、ライターさんたちと一緒に記事をつくり上げていく編集の仕事のほうがメインかもしれません。
去年4月に組織改編があって、リニューアル以前の「CINRA.NET」をつくっていた編集者と、企業の受託案件を担っていたBtoBにも強い編集者が一緒の部署になりました。それぞれ異なる強みを持ったメンバーが集まっていて。編集部のメンバーはCINRAメディアの運用だけではなく受託案件もやっているので、一つのチームになってどうメディアをつくっていくかということは簡単ではないですが、おもしろいものが生まれそうな予感もしています。
Web版美術手帖では、橋爪さんが自ら動いて記事を出しているところがすごいと思っているのですが、ほかの編集者がその姿に刺激され、追随するような動きはありますか?
橋爪:追随というよりも、徐々に浸透していったというほうが正しいかもしれません。雑誌『美術手帖』では、編集の仕事が基本で、社員=編集者が記事を書くことはあまりありません。いっぽうWeb版美術手帖がスピード感を持ってソーシャルイシューを手がけられているのは、ぼく自身が自前で記事を書くというスタイルをとっているから。このスタイルがウェブ編集部の前提となっています。

―ソーシャルイシューを扱ううえで、ときには記者として、ときには編集者・編集長としてメディアに関わるお二人。これから挑戦していきたいことを教えてください。
橋爪:メディアとしては、これまで通り、社会とアートを接続させていくことを大切にしつつ、ユーザーとメディアがもっと繋がっていくような設計を進めていきたいですね。雑誌『美術手帖』の看板が大きく、歴史の重みを感じますし、美術史を先人たちが紡いできたその端っこにいる自分たちに何ができるのかをつねに考えています。我々だからできることに使命感を持ち、これからも世の中に問いかけていきたいです。
生田:私は、これまでよりさらに広い視野を持って、カルチャー界の変化についてもアンテナを貼り、キャッチアップしながら編集部のみんなと伝えていきたいと思っています。
最近だと、今年8月に開催された「SUMMER SONIC 2022」でのジェンダーバランスが話題になりました。THE 1975のMatty Healyが、「ジェンダーバランスのとれた音楽フェスのみで演奏する」と表明していて、女性アーティストの比率を高めてほしいという要望をふまえてラインナップが調整されたと(参考記事)。そういう世界的な流れが日本のフェスにも影響を及ぼして、「一緒に変えていこう」という行動に移っていることは、すごくポジティブな動きだなと思って。CINRAでも伝えていきたいです。
橋爪さんは以前、学芸員の労務問題に切り込んでいましたが、業界との関係性に不安はなかったのですか?

橋爪:アート業界はすごく狭い世界で、ぼくらはそのいちプレイヤーなんです。アートジャーナリズムを掲げていますが、どうしても遠慮したり、顔を立てたりなどの関係性が出てきてしまうことはあるので、メディアとしての姿勢は難しいなといつも思っています。
ぼくらはアート業界をよくしたいし、アーティストがもっと尊敬される社会にしたいし、美術館にも人がたくさん来てほしいし、文化行政からの予算がもっとついてほしい。よくなるためにはやっぱり欠点も出していかなければいけないと思っています。それに対してよく思わない業界の人がいても、誰かが言わないといけないことには、ある程度の覚悟を持って取り組みます。
あとは「アートジャーナリズム」を担うメディアとして、ソーシャルイシューを客観的に露出させていくスタイルをWeb版美術手帖はとっていますので、記事を出すことに対して不安に思う必要はありませんでした。
生田:なるほど、客観的な事実に対して少しだけ自分の意見を入れると。
橋爪:そうですね。ライターさんに記名記事を頼む場合は、むしろその人の主張が求められるのですが。編集部が書く記事としては、現状をどう伝えるかというフラットさを大事にしている。だから、書き手の個性やWeb版美術手帖らしさが集約されているのはタイトルくらいかもしれません。
ちなみにぼくたちの場合は、ソーシャルイシューをアート軸で取り扱うという縛りがありますが、CINRAの場合いろいろな切り口が出せそうですね。
生田:入社して思ったのが、CINRA編集者たちのヒアリング力と、ユニークな切り口を見つける企画力の高さは本当にすごいなと身に沁みていて。クライアントがいる場合も、要望をしっかり聞きつつ、CINRAが届けたいことのバランスをとることができ、普通の記事では終わらせない。そこがCINRAの魅力だと思いますし、信頼されているところでもある。ソーシャルイシューを取り上げつつも、カルチャーの面白さを伝えることと、共感を持ってもらえるようなユニークな記事をつくっていきたいですね。

生田:同時に、社会課題のようなテーマを取り上げる場合は、理解と知識も必要だし、企画者自身が「自分ごとでもある」という問題意識を持っていることも大切かなと思っています。熱意のある企画こそ広がっていくと思いますし、そうした企画がどんどん生まれるようなメディアとして成長していきたいなと思っています。

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to fill the world
with imagination.
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