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台湾カルチャー手帳①/スラッシュ青年

9 September 2019

CINRAでは、東京、台北、ソウル、バンコク、シンガポールなど、アジア各国の「今」を切り取るクリエイティブシティガイド 『HereNow』を運営しています。現在11都市の展開をしている本シティガイドは、各都市のカルチャーシーンに焦点を当てながら、その都市にいる人々の特長も観察してきました。「台湾カルチャー手帳」と題した本連載では、台湾出身のコンテンツプランナーである私・郭 晴芳(カクハルヨシ)が、台湾の若者の間で今起きている現象をご紹介していきます。

記念すべき第1回で取り上げるのは「スラッシュ青年」について。「スラッシュ青年」とは、複数の肩書きを持つ若者のことで、日本で言う「草食系男子」に匹敵するくらい台湾では知られている言葉です。現在台湾では、このように1つの職業だけでなく、2つ以上の職業/肩書きを持つ若者が続々と増えています。今回の記事ではさまざまな領域で活躍する台湾のクリエイターを3名ご紹介。3人の価値観から台湾の社会事情を読み解いていきます。

著:郭 晴芳(カクハルヨシ)

来日13年目の台湾出身のプランナー。2016年にCINRAに入社し、アジアのシティガイド『HereNow』のクリエイティブプランナーとして、台湾向けの広報とマーケティングを行い、半年間でアプリ12,000DL獲得。高雄観光サイト、台湾プラス、岩手プロモ冊子、津山台湾向けプロモ、著名人出演記事でも、企画・ディレクションを担当。台湾と日本のかけ橋として活躍。

 Johnnp (ジョンピ) イラストレーター / グラフィックデザイナー / DJ / フォトグラファー

Johnnp、34歳。現在はイラストレーターとグラフィックデザイナーをメインに仕事していて、時にDJ 、イベント撮影などフォトグラファーとしても活動しています。最近は学生時代に学んだプログラミングを勉強し直しているとか。「教科書があるものなら怖くない」「ゼロからスタートだって好都合」と語る Johnnp は、身に付いたスキルは全て肩書きにしたいという「想い」から今のスタイルでの活動が始まったという。特に、昔から音楽に夢中な彼の今までの多様な経歴は、全部音楽に紐付けられているそうです。

Q:スラッシュ青年として仕事するときのいい点と悪い点を教えてください。

私は自分では「スラッシュ青年」として仕事している、という意識はないけれど、好奇心旺盛な性格と、いろんなことを知りたいと常に思っていたおかげで、結果的にできることがどんどん多くなりました。高校から美術やデザインを勉強しはじめた訳ではなく、大学でデザイン学科に編入したので、人よりも頑張らないといけないと思っていたし、性格的に、学びたいことも上達したいことも人よりも多かった結果が今に至ったんだと思います。

また、複数の肩書きを持っていると、いろんなイベントに参加・コラボしていくうちに、担う役割も複数になっていくのが楽しいですね。例えば 6 月に Tokyo bike さんとコラボした二日間のイベント『一起搖音樂市集』では、初日ではライブペインティングをして、2 日目は DJ として音楽をかけました。同じイベントで違う役割を体験できるのは、なかなかないことなので嬉しいです。

逆に困るところは、役割の切り替えによるモードの切り替えですかね。例えばフォトグラファーとしての仕事があれば、前日に撮影方面のコラムを読んだりして、仕事モードを仕込んでおきたいですが、フォトグラファーとイラストレーターの仕事が連続するときは、仕込みなどの時間がないので、気分転換にシャワー浴びたりして、短時間でイラストレーターモードに切り替えています。

人からは、いろいろやっていると時間の配分に困らないかと言われるのですが、自分の中で優先順位があるから、仕事に使う時間の配分はそれほど困ってないです。複数の仕事のオファーがきているときは、優先的にグラフィックデザイン系とイラスト系を選び、DJ の仕事は順位を下げます。

Q:台湾のカルチャーシーンに、スラッシュ青年が多い現状についてどう思いますか?

この 3、4 年で、台湾で「スラッシュ青年」という言葉が流行り始めて、いつの間にか私も人にそう呼ばれるようになり、正直なところ訳がわからないと思っていました(笑)。この言葉が流行って、人々はそういう人たちが「スキルを得て、さらに儲けたい人」と思ってるかもしれないけど、私はそうではないです。私は好きなこと、気になることばかりしてるうちに、今のように色々なことができるようになっただけですから。給料が低いから、色んなことをやって儲けようという、人々が思ってるスラッシュ青年とは違うと思います。

7、8 年前、あるブランドのビジュアルプランナー職に応募して、面接でこう言われたことがあったんです。「君を採用してはいけない気がする、なんでも出来すぎるから。君は仕事を探すのではなく、仕事が君のところに来るのを待つべきだ」と。その時は、自分にはいったいどういう職種が相応しいのかと、すごく戸惑いましたが、その後、ニューヨーク留学から戻った先輩に相談して、先輩から「通才藝術家(multiartist・様々な分野で活躍するアーティスト)」という肩書きがあることを教えてもらい、なんとなく腑に落ちて安心しました。「通才(トンサイ・様々な分野で活躍し、結果を出している)」という肩書きは、台北ではまだ馴染みのない言葉だけど、自分にはそれが当てはまっている気がします。

大霈(ダーペイ)司会者 / 女優 / バンドボーカル / イラストレーター / コラム二スト

朗らかなプロフィール写真が目を引く大霈(ダーペイ)のInstagramを覗いてみると、ロケ番組の司会者、女優、バンドボーカル、イラストレーター、コラムニスト、と、様々なシーンで活躍する彼女の多才なキャリアが見て取れます。「昔は、前に出たがらない、控えめな性格だったけど、挑戦を重ね、試練を乗り越えて、いつの間にか今の自分になった。重要なのは、まずは全身全霊でやってみることだね!」と自信溢れる笑顔を浮かべて言います。

控えめな性格を変えたのは、勇気を出して挑戦をして、一つ一つの肩書きを自分のものにしたからだと思う。これらの経験を通して自信がついた気がする。最初は元気なテレビ番組司会者からクールなバンドボーカルなど役割によって立ち振る舞いが全然違って、切り替えが難しかった。演じるキャラクターがプライベートまで影響してしまったりもして。でも今は、そのどちらかが自分ではなくて、私にはたくさん違う面があるんだと、受け入れました。

Q:台北のカルチャーシーンに、スラッシュ青年が多い現状についてどう思いますか?

「私自身、この環境に居られるのは幸せだと思う。違う面を持っていることでいろんなジャンルの人と交流して、友達になりさらに新しいことを知ることができるから。

でも、台湾がこのようにゆるい雰囲気であるのは、人々がプロを大事にしてないからだとも思う。もし私が日本のように役割がきちんとした社会にいたら、職業と言えるのはせいぜい司会、女優、バンドボーカル。イラストレーターとコラムニストは趣味にとどまると思う。だからこそどんどん勉強して、楽しみながら自分を磨いていかないといけないよね!

連思博 蛋蛋(レン・スーボー ダンダン)グラフィックデザイナー / フォトグラファー / モデル

連思博(レン・スーボー)、26 歳、みんなから蛋蛋(ダンダン)と呼ばれる彼は、はフリーランスでグラフィックデザイナー、フォトグラファー、モデルをやっています。自分は運がいいと謙虚に話す蛋蛋は、キャリアも何もがまっさらだった大学時代からこの三つの職業に触れ、今に至ります。。穏やかに語っている彼に、最近印象的だったお仕事はありますか?と聞くと、満面の笑みで「『Popeye』の表紙のモデルになったこと!嬉しい!世界一嬉しい!」と答えてくれました。全てのチャンスを真摯に受け止め、感謝し、どの役割も全力で全うしたいとのことです。

Q:スラッシュ青年としてさまざまな仕事するときのいい点と悪い点を教えてください。

クリエイティブの仕事は、多面的に考えるべきだと思う。私はそれぞれの仕事の役割が違うからこそ、視点を増やすことができている。日常的にいろんな領域と触れ合えるからこそ、違う見方、考え方をすることができる。例えばクライアントの課題に対して、フォトグラファーとデザイナーとして企画を提案することができる。このようにできることや役割が一つ増えたというだけではなく、物事を進める時に案件をより全方位的に考えられるのがいいところだと思う。

フリーランスだから、複数の役割を一気に担当できるのはメリットだけど、逆に定期的な仕事がないのはデメリットかな。定期的に仕事をして安定した収入が欲しいなら、時間をどんどん仕事に費やさないといけない、そうするとオンオフの境目だんだんわからなくなる。ここ三ヶ月は深夜 3、4時まだ働いてた日が多く、気持ちもスケジュールも常に整理しなきゃいけなかった。(笑)良い経験を積んでスキルを磨いて、ゆっくり丁寧に土台を固めたいと思う。

Q:台湾のカルチャーシーンに、スラッシュ青年が多い現状についてどう思いますか?

台湾は柔軟で、寛容な都市だと、昔からずっと思っている。様々な文化、全く違うカルチャーを受け入れられる環境だから、スラッシュ青年も違和感なく普通の存在だと思う。それに、多分台北は、まだまだ成長していく都市だと思う、だから今は、欧米や日本の都市のように完成度が高くない。もっとプロフェッショナルになれると思う。自分も結構こだわる人で、全ての役割でよりプロな境地を目指したいし、台北という都市にもその境地を目指して欲しいと思う。

あとがき

私が3人のスラッシュ青年にお話を聞いて感じたのは、台湾の国民性である「寛容さ、ゆるさ」。社会が新しいことに挑戦することに寛容であるからこそ、若者がやりたいと思うことに素直に取り組むことができる環境であるように感じました。そして、日本や欧米に比べてクリエイティブ人口が少数だからこそ、一定以上のクオリティで独自の視点や切り口を持っていれば、おのずとチャンスは巡ってくる環境にあるようです。

また、お金を稼ぐためにいくつかの職業をやっているというよりも、「多面的な視点を得ることができる」、「新しい人と出会うことができる」といった価値観を重視して仕事選びをしていることも非常に面白い視点でした。

次回は、「台湾の若者のエコ意識」についてご紹介する予定です!お楽しみに。    

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