アジアのクリエイティブ・シティガイド「HereNow」香港版のローンチを記念して、2019年4月12日にCINRAオフィスで『香港ナイト』を開催しました。
2015年6月に東京、沖縄、シンガポールの3都市でスタートした「HereNow」は、これまで京都、福岡、台北、高雄、ソウル、バンコクとエリアを拡大。今回の香港版のローンチにより、ついに10都市での展開となりました。

この日は香港の夜をイメージして、赤い提灯やネオンで会場内を装飾。さらに香港の新進気鋭ブルワリー「gweilo」と、日本を代表するクラフトビールメーカー「Far Yeast」のコラボによって生まれた限定ビール「Far Yeast Extra Brut IPA」をご用意して、来場者の皆様と乾杯させていただきました。

HereNowプロデューサーの丸田武史が挨拶を行なったあとは、HereNow香港でキュレーターを務めるKurt Linさんが登壇しました。Kurtさんはイギリスの雑誌『Monocle』の元香港駐在副社長で、現在は香港の英字新聞『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』を発行する「南華早報」内のMorning Studioにおけるコンテンツストラテジストとして在籍。過去にはアメリカ、イギリス、オーストラリアにも滞在していた経験があるそうですが、生まれ育った香港が好きで帰ってきたと言います。

現地で生活するKurtさんが語る香港は、日本人が抱いているパブリックイメージとは大きく異なるものでした。たとえば、その一つが九龍城。Kurtさんは「日本人は世界で最も九龍城が大好きな人種」と言いますが、実際の香港は金融の街として世界的に知られています。
日本人の多くはその面に興味を持たないばかりか、1990年代に取り壊された九龍城をいまだにイメージする。Kurtさんはこれを「世界の人が日本と言えば着物や忍者を連想するようなもの」だと表現していました。
一方でKurtさんは「香港を伝えるのは難しい」と言います。香港はイギリスによって統治された時代があり、第二次世界大戦時には日本が統治した時期もありました。さらに1960年代には、文化大革命によって中国各地から迫害を恐れた知識人たちが移住。ベトナム戦争で逃れてきた移民も多くいます。そして近年は、金融都市として各国から派遣された駐在員が増えており、国籍としてはフランス人が最多となっているそうです。
そのため香港では、隣のエリアに移動すると、まったく違う文化圏になることも珍しくありません。育ってきた環境が違う人々が集まる都市であることから、Kurtさんは「これから香港を訪れる人にどんな場所を紹介していくべきか議論になった」と、HereNow香港を立ち上げに際しての裏話も披露してくれました。

そうしたなかで現在、香港政府が力を入れているのがアート。香港はアートの取引額が、ニューヨークとロンドンに次いで世界3位となっており、Kurtさんの言葉を借りればクライアントが「とにかくたくさんいる」。最近は国内外からアーティストが集まっており、これまでの「アートが取引されている場所」から、「アートが行なわれている場所」に変化を遂げつつあるそうです。
2020年には世界最大級の美術館「M+」も開館予定。新たな観光名所となることが期待されています。国際的なアートフェスもたびたび開催されており、香港は近い将来「アジアのコンテンポラリーアートの中心地になる」と、Kurtさんは力強く語っていました。

そしてもうひとつ、いま香港で流行しているものがアウトドア。Kurtさんが子どもの頃は、そこまで注目されていなかったそうですが、近年は週末になると、友達や家族でハイキングに行ったり、ランニングをしたりする人が増えているそうです。
特に夏場は船を借りて20〜30人で集まり、海の上で一日中過ごすことが定番となっているのだとか。 香港と言えば「100万ドルの夜景」が有名で、高層ビル群のイメージが強い人も多いと思いますが、それは一部のエリアだけ。じつは国土の7割近くは豊かな自然が広がっているということは、あまり知られていません。こうした話だけでも、日本人が抱く香港像と現地のトレンドには、大きなギャップがあることに気付かされました。
1時間近くにわたって、現地の感覚で香港について教えてくれたKurtさん。最後は「民主主義は最悪の政治形態だが、いままで存在したどの政治形態よりもマシ」というイギリスの元首相・チャーチルの言葉を借り、「香港は最悪の都市だけど、自分が住んだどの都市よりも最高の都市です」と、香港愛をアピールして講演を締めくくりました。

そして質疑応答の時間では、「香港人のアイデンティティは?」という質問に対して、非常に興味深い話をしてくれました。
Kurt:イギリスの一部だったときも、別にイギリス国民だとは思ってなくて、それよりも自分のルーツにアイデンティティを持っているんです。祖先が上海から来ていれば、自分は上海人だと思っている。海外から来て10年くらい住んでいる人も、みんな自分たちのことをオーストラリア人とかインドネシア人とか言うんです。これがニューヨークだったら「私はニューヨーカー」、パリだったら「私はパリジャン」と言うと思うんです。でも香港の人は、そうは言いたがらない。そういうところも、ぼくが香港を好きな理由ですね。
イベントはこのあと、この日のために取り寄せた香港料理を食べながらの交流会へ。そこでも多くの人から声をかけられ、人気者だったKurtさんですが、少しだけインタビューをさせていただきました。

―HereNowに対して、どんな部分が面白いと感じていますか?
Kurt:一般的な旅行サイトはなんでも紹介しますが、HereNowは「カルチャー」というテーマに沿って展開していますよね。そこにスペシャル感があると思います。
―いま香港に行こうと思っている人に、おすすめのスポットをひとつ挙げるとしたら?
Kurt:香港の過去、現在、未来をすべて体験できるルートがあります。堅尼地城(ケネディタウン)駅からスタートして、
湾仔(ワンチャイ)まで歩くのですが、上環(ションワン)
から中環(セントラル)までの間には、昔の議会の建物があります。その先の金鐘は、昔のイギリス軍の駐在地で、いまの香港政府の最重要拠点でもあります。
そして、その先の湾仔にある皇后大道東(QUEEN'S ROAD EAST)は、第二次世界大戦時に日本の植民地となっていた時に、多くの日本人が暮らしていたこともあり「リトル東京」と呼ばれていた時代もあります。一見したら、そのエリアと日本の繋がりを感じられないかもしれませんが、ガイドなどをつけることによって、多くのエピソードを知ることができるでしょう。
また、上環から中環までの間には、荷李活道(ハリウッドロード)と呼ばれる道があるのですが、そこは昔からアートが盛んで、第二次世界大戦以降は古い芸術品を扱っている店がたくさん集まっていました。このハリウッドロードは、片側にお寺などがあり、反対側には昔の警察署や裁判所などがあり、道を挟んでアジアと欧米の文化が対峙しているような場所でもあるんです。
ほとんどのガイドブックは、この店に行ってください、このスポットに行ってくださいと、点々としたものしか紹介してませんが、線でつながる楽しみ方も知っていただきたいなと思っています。このルートは、寄り道しなければ1時間ほどで香港の歴史を感じられるので、ぜひ試していただければと思います。

―ビジネスで香港を訪れる人に対して、気をつけたほうがいいことはありますか?
Kurt:日本人はマナーやルールをよく守り、慎重に物事を進めますよね。日本は事前準備が80%だとすると、香港は逆に20%くらい。やってみて失敗したら、またやり直せばいいと考えます。だから日本人は、香港人のスピードについていけないことが多い。日本人の規則正しい部分を香港のために変える必要はないですが、そのスピードに慣れる必要はあると思います。
たとえば、日本人は新しい産業に関係性を作りたいとき、まず知り合いを作り、ミーティングを重ねて、タイミングを測って、ようやく「こういうことをしたいんですけど……」と話が進みます。香港は今日知り合ったばかりでも、「一緒になんかやりましょう!」とすぐに始まります。なぜなら香港は、土地が狭くて、物価が高いので、時間をロスできないんです。
だから香港には職人がとても少ない。たとえば寿司職人を育てようと思っても、育てている間に家賃が払えず潰れてしまうんです。私も才能ある若者をたくさん知っていますが、目の前の生活に追われて、とりあえず他の仕事をしている人も少なくない。止まったら死んでしまう、マグロみたいな感じです(笑)。

―HereNowを通して、香港のどんな部分を発信していきたいですか?
Kurt:カルチャーの側面から香港を紹介したいです。香港には商業的なイメージを強く持っている人が多くて、それは事実ではありますが、それだけじゃないと思うんです。海外の人たちと話すと、いまだにブルース・リーやジャッキー・チェンしか知らないことも多いのですが、それはすごくもったいない。将来有望なミュージシャンやデザイナーもたくさんいるので、そうした若いクリエーターを海外に紹介したい。そういう点でも、このプロジェクトに意義を感じています。
逆に日本のクリエーターを香港に呼ぶこともしたいと思っています。香港の人は外のものへの憧れが強いので、日本の良質なものを香港に持っていけば、高い確率で成功が見込めます。また、香港で何かサービスを始めれば、より市場の大きい中国に行くことも比較的簡単です。香港という都市は、中国も東南アジアも全部視野に入る場所です。ビジネスチャンスは大きいと思います。

短い時間ではありましたが、現地のリアルな情報や、その土地で生活する人にしかわからない感覚や情報を教えてくれたKurtさん。HereNowは、その街の「いま」を伝えるシティガイド。それぞれの都市の方々から発信される情報に、今後もご期待ください。
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