「自社商品を売りたいならば、広告代理店に丸投げするのはやめなさい!」 田端信太郎さん×本田哲也さん トークレポート

09.22.2014

こんにちは、広報の塩谷です。

この夏話題になった書籍『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。』を執筆された、「メディア野郎」ことLINE株式会社の田端信太郎さんと、戦略PRプランナーの本田哲也さんによるトークイベントに行きました。トークの聞き手には、NewsPicks編集長の佐々木紀彦さんがご登壇。広告・PR・メディアの最前線を作っておられる方々が勢揃いです。

本田哲也さん×田端信太郎さん

お三方がいま考える「物を売る」「話題を生む」ために必要なことや、メディアの運営方法などなど、わたしたちCINRAのお仕事ととても関係の深いお話しばかりでしたし、広告・PR・マーケティングに関わる方、そうでない方にも、ぜひシェアさせていただければ…という内容でした。せっかくですので、このブログでレポートさせていただきます!

 

日本の広告・PR業界は閉鎖されている?

本田:大きな課題として、欧米と比べると、日本の広告・PR業界って閉じてしまっているんですよね。一種のギャズムのようなものが成立し、広告業界人と一般のビジネスパーソンの間で大きな隔たりがある。でも「人を動かす」というのは皆にとっての課題です。

田端:日本はビジネスパーソン一人ひとりの、広告へのプロフェッショナリズムが低いんです。自社製品を生産した後は、広告代理店などの玄人に丸投げになってしまっている。この本で「あきらめなさい」と言っているのは、「丸投げするのをやめなさい」という意味でもありました。

本田さん

—このような課題意識の共有からはじまった、トークイベント。ちなみにこのイベントが広告・メディア関係者が多い汐留や赤坂ではなく、ビジネスマンの多い丸の内にて開催されたのは、「広告・PR業界人」以外の人たちに、いかに広めるか? というのが、この本を通しての課題でもあったからなのだそうです。

佐々木:日本は、マーケティングのレベルが高くないと言われてますよね。その原因は、メディア、広告代理店、宣伝部、日本全体……一体どこにあるのだろう? そう考えたとき、誰でも読めるマーケティングの本というのが少なかったんです。理論的なものは多くあるのですが。

本田:理論的なものに対し、Facebookページを運営してみよう! といった小手先系のものはあるんですよね。中でも、中間的なスタンスのものは、確かに少なかった。海外では、上流の考え方やマインドセットを提唱する本が多くあり、そこを読んで育った広告マン、PRパーソン、マーケターの層が厚い。もちろん、海外の手法全てが正しいという訳ではありませんが。

田端:また、ハンバーガーを売るのと、高級車を売るのでは手法も考え方も全然違う。なのに今、「ソーシャルメディアマーケティングだ!」と盛り上がって、どこも一緒になってしまっている。間違いじゃないけど、ずれてるなぁ、と思うんです。
ゴルフをする時、「あと何ヤードだからこのゴルフクラブにしよう」という風に選ぶでしょ。広告もそれと同じで、状況を見て使う道具を選ばなきゃいけない。だからこの本では、1000人〜10億人といったスケールごとの事例を出しながら、その手法を分析しています。飛距離に適したクラブを選ぶことが重要ですから。あ、僕はゴルフ、3回しか行った事ないんですけど…。

 

発信することのリスクなんて、ずっと昔からあったんです

田端:事業会社の人とお話していてよく感じることなのですが、彼らは「広報やマーケティングに、素人が口出ししちゃいけない!」と思ってしまっているんです。これは大きな間違い。今は、かつてのマスマーケティング優位の時代とは異なり、「失うもののない素人のマジレス」にこそ真理があったりします。

佐々木:宣伝部のエリートによって「消費者はこういう風に動くだろう」と計算された広告は、もはやカッコ悪いですよね。でも、受け手一人ひとりの感情を想像するのは決して安易なことではありません。そこにセオリーはないのでしょうか?

田端:丸の内で言うのも何なんですけど、私、サラリーマン根性はダメだと思うんですよ。日本企業でありがちなやり取りですが…

上司「当社初のソーシャルメディアマーケティングが盛り上がらなかったらどうするんだ?!」

部下「はっ、部長、しっかりインフルエンサーを100人仕込んでおりますのでご安心を!」

なんていう茶番があって、結果として企業のステマが叩かれたりするワケです。

田端さん

上辺だけの数値で上司を安心させ、あとはスムーズに、淡々と、ダイヤ通りに列車を進ませることこそが正義だと思っている。そのサラリーマン根性がダメだと思いますね。「流行らなかったときには、自分で手を尽くして何とかします!」ってアツさがあれば良いのに。

本田:私は広告よりもPR側の人間なので、より顕著に感じます。広告は枠を買うため、ある程度言いたい事が言えますが、PRとなると、編集者やTV、ネットユーザーに評価を託してしまうので、どう転ぶかわかりません。メディアで話題にされるためにはある程度の余白を残すことが大切なのに、日本のPR担当者は、美しくまとめることに注力しすぎるんです。

人でも同じことで、完璧な人間よりも、2割くらいドジな人の方に惹かれたりするでしょう。それをマーケティングに当てはめて、「完璧にはせず、身を捨ててやる」ということにトライしてみて欲しい。

もちろん、発信することと比例して、リスクも増えていきます。ただリスクの存在って、ネットの普及と同時に勃発したように見えているんですが、そんなもの昔からずっとあったんですよ

 

ネットの火種があるからこそ、テレビで火が着く

佐々木:新聞、雑誌、テレビなどのマスメディアについて、これからどうなっていくと思われますか?

田端:昔のように、製品をローンチした瞬間にTV-CMを放送する手法は、あまりにも勿体ない。
まずは1,000人規模でいいから、バーベキューの種火のようなものを温めておくんです。そして、スケールするぞ、というタイミングで、バーナーで一気に火をつける。それがCMの役割かと。もちろん、そこで一気に燃え上がるかというとそうでもなくて、最初の種火の質が大事なんですけどね。

佐々木:結局、インターネット上だけで収まってしまうサービスって弱いじゃないですか。仲間内での勘違い感が出てしまう。ネット発祥のサービスをいかにマス層に繋げていくのか、というのは課題で、そんな中、LINEは一番の成功例かと。

田端:あっ、ハイッ……。

 

イケてない会社、商品、サービスを、広告の力だけでなんとかしようとするな

佐々木:お二人にとって、「この人が凄いな」って広告マンはいらっしゃるんでしょうか?

田端:全然広告マンじゃないんですが…ジャズタクシーの運転手、安西さんはスゴいですよ。70歳のおじいさんなのですが、素晴らしい音響でジャズを流しながら、東京の街中を20,000円くらいでクルージングしてくれる。安西さんのタクシーに乗りたい場合は、Web予約が必要なのですが、常に順番待ちになっているほど。去年引退されてしまったのですが…。

> 20年の歴史に幕!JAZZ TAXI安西敏幸さん引退

安西さんは、何組ものカップルのプロポーズをお手伝いされていたんですよね。彼氏と事前に打ち合わせて、トランクにシャンパンを冷やしておいて、絶妙のタイミングで音楽をかけて…。そうとは知らず乗り込んだ彼女はビックリです。

特別に広告を打つことはなく、「今日はプロポーズのお手伝いが上手くいって嬉しいです!」だなんてことをmixiの日記に書いて、マイミクのお客さんたちが一緒になって喜んでいる。それで充分なんです。

タクシーの運転手さんってどうしてか「最近は景気が悪くて…」みたいなネガティブトークが多かったりするじゃないですか。でも安西さんは、ご本人がイケてる。それが全てです。

つまり、イケてない会社、商品、サービスを広告の力だけでなんとかしようっていうのは難しいんです。残酷だけど、今はネットの力でその評価基準がどんどん純粋になっています。サービスの運営者がイケてるかどうかも、ソーシャルメディアで透けて見えてくる。

本田:田端さんのおっしゃるとおり、自社の商品のことを、愛をもって語れるか…というのは重要ですよね。そこにストーリーがあれば増幅することができる。逆に、愛がない商品やサービスを、広めることは難しくなりました

 

専門メディアのほうが、明るい未来が待っている?

—最後に、参加者の方々から質問が投げかけられました。

質問者 女性:私は普通のサラリーマンなんですけど、今一生懸命作っているサービスがあって…でも、会社の宣伝手法は時代遅れだと感じているんです。一介のサラリーマンである私なのですが、どのようにPRしていけば良いんでしょう…?

田端:つまり、あなたはそのサービスのことを、愛してるんですよね。それってスゴいことですよ。それを持ってるってだけで、一介のサラリーマンとは言えないですよ。

会社で正しいとされていることと、サービスを盛り上げることは合致しないんですよね。でも日本には『勝てば官軍』という素敵な言葉がある。上司がギリギリ黙認してくれればその隙に「私は残業代も出ないのに、会社のために、お金もつかわず、やっているんだ!」とひたむきにトライしてみてください。結果が出れば、「あ、いいじゃん!」って周りが言い出しますよ。

質問者 女性:ありがとうございます…!やってみます。

田端:ぜひご健闘を!ただ、クビになっても責任は取れません!

質問者 男性:私の会社では、サッカーに特化した専門メディアを運営しているのですが、そのような専門性の高いメディアの未来について、どのように捉えられていますか?

本田:今の時代、マスメディアよりも専門メディアのほうが未来明るいんじゃないか、って思っています。読者と深いところでエンゲージが出来ている…というのは、ポイントが高いです。WEBや紙のメディアだけじゃなくて、食とサッカーを組み合わせてみるとか、そんな多様性が出て来るとより面白くなりますよね。

田端:ロッキングオンとかも、まさにその形ですよね。メディアというよりは、読者がひとつの嗜好をもったトライヴ(=部族)となり、マーケットになっている。ライブのように、読者間で連帯感を感じられる場所をつくるのは、専門メディアのモデルとしてアリだと思います。

サッカーメディアだったらスポーツバーみたいな所を運営したり、名場面を集めたDVDの監修をしたり…例えば、ツアーを企画してしまうとか。そのトライヴの人たちへのファンクラブ代理のような形で、紙やネットのメディアがある、という構図でしょうか。

佐々木:最近だと、KDDIによるナタリー(ナターシャ)の買収が話題になりましたよね。あのような形で専門メディアが拡大し、お金も儲る…そんなサクセスストーリーもアリだな、と思わされました。

これからのメディアは、プラットフォームになるか、プラットフォームに買収されるか、ものすごくニッチに深堀するのか…の3択ではないでしょうか?

 

目の前の「ひとり」を動かすために大切なこと

質問者 女性:1,000人〜10億人といったスケールごとのお話はとてもためになりました。でもお二人は、目の前の「ひとり」を動かすとき、どんなことに気をつけていらっしゃいますか?

本田:「ひとり」を動かすことについては、実は最終章で書きたかったのですが…長年PRの仕事をしていると、すごく沢山の人を動かさなきゃ…という課題ばかりになるんですよね。もちろんそこにやり甲斐を感じて続けてきたのですが、慣れると本質を見失ってしまう。かつて「この手法で1,000万人を動かして…」という提案をしている最中に「この話、自分が受け手だとしたら、動かないな」と思ってしまうことがありました。

震災の死亡者数の報道を受けて、ビートたけしさんは “人の命は、2万分の1でも8万分の1でもない。そうじゃなくて、そこには「1人が死んだ事件が2万件あった」ってことなんだよ。” とおっしゃっていました。数として捉えるのではなく、自分の家族のように大切な存在が集合体になっている…そんなことを常に認識しています。そうしないと、上っ面だけのコミュニケーションになってしまう。

田端:でも、家族を動かすことほど難しいことはないですよ!私の子どもは5歳と2歳なのですが、全然言う事聞かないし。奥さんも難しいですよ。そっちも全然言う事聞かないし!

でも家族と過ごすことの面白さって、本が売れたとか、トークイベントで遅くなるとかに関わらず「今晩はあなたがオムツ変えてくんない?」って急にアサインされるんですよね。そういう生っぽいやり取りをしながら、怒ったり喜んだりして子育てをする感覚は、仕事でも忘れちゃいけないですよ。

例えば「ナントカ株式会社の広報部として、本心を置いて仕事してます!」と言われても、誰も見向きもしません。人の心を動かすのは人の心ですからね。最後が青臭い話になりますけど、モノを伝えるためには、人と真面目に向き合うしかないんですよね。

お三方

—状況によって道具を選ぶこと。完璧に美しく作りすぎないこと。自社サービスへの愛をもって語れること。人と真面目に向き合うこと…。PR・広告の第一線で活躍される方々の言葉は、想像以上にシンプルで、身近なものでした。

カルチャー専門メディアでもあるCINRA.NETを運営する私たちにとっても、興味深いお話が沢山。記事を書くとき、Webサイトを制作するとき、それを受け取る人と真面目に向き合っているか? ということを忘れずに、続けていきたいですね。

> CINRA.NET

>『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい』

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